fukeigaku

kouuchimura
キュレター:Arthur Takehara
プロデューサー:地場 賢太郎

2015年  9月 16日(水) - 9月26日 (土)
15:00-20:00(会期中無休)
レセプション:9月 19日(土)18:00〜
※この展覧会は全3回シリーズの第2回目です。

会場: Art Lab Akiba

Placebo1
「夏のある一日」 2015
27 x 32.5cm パネル・綿布・石膏地・岩絵の具

gallery

Poem in Japanese

布を織る、絵を降ろす  Arthur Takehara

 「これが今回のキャンバス」と内村が取り出したのは、ぼつぼつと節のある生成りの綿布だった。手に取れば、織り目のひとつひとつが独立しているような手応えを感じる。まずはこれを四角くパネル張りし、真っ白な石膏で上塗りするという。 自由で、かつ実直な、この布の持ち味を殺してしまうのか、と少し戸惑った。彼が「支持体から自らの手で作る」ということに意味を見出しているのを知っていただけに、もしや、制作過程を意識するあまり、その結果であるところのものに執着しなくなっているのではないかという気さえした。  しかし、いざ作品を目にすると、その懸念はどうでもよくなった。布の手応えは封じ込められるどころか、隠し切れない主張となって石膏というメディアに記録されている。今回の作品が面白いのは、ここからである。 でこぼこした白い面に、岩絵の具で描かれたかたちが、爪先立つように着地している。絵具が作家の意を運び、キャンバスがそれを受け止めるといった、支持体に対する描画材の優位性はここにはない。それらは互いに混じりあうことなく、静かに共鳴する一点へ向かっている。 内村の中には、工業製品に象徴される「与り知らぬところのもの」に頼らず、自らの手で自作を生み出そうという理想と、一方で、自身が個を超えた大きな概念の中に位置している感覚とが同居している。今回の作品の場合、彼の主体性はキャンバスそのものが持つ主張に同化しており、絵の方はと言えば、謙虚な振る舞いでどこからか「降ろしてきた」もののように思われる。

作品について  内村航

 前回の個展(渚の風景学 I)の「紙と木炭」から一足飛びに、素材は今回「布・石膏・岩絵の具」へと変わった。  はじまりは、紙の均一なテクスチャーに飽き足らなくなり、次は支持体を自分でつくりたいという思いから、「そもそも絵画に使われるキャンバスは産業革命以前では手紡ぎ手織りだったのではないか」と気づいたことだ。そこで自分で織った布をキャンバスにして絵を描こうという計画が始まった。  まず糸を調達し織り機で織って布にする。そしてできあがった綿布のテクスチャーを残しつつ、絵の具になじむ下地を模索し、石膏の地塗りに行き着いた。さらに地場先生の「アクリル絵の具より岩絵の具でしょう」という一声で岩絵の具と格闘する日々となった。  とにかく時間がかかり、「できるだけゼロから自分の手で作る」と、頭ではわかっていても実行することの大変さを思い知らされた。そしてその素材たちと向き合いつつ、自分の内面と対話しながら、ひとつの絵画として生み出すことは、なんとも壮大なスケールの話だと、まるで他人事のように思ってしまう。 渚の風景学という言葉に込めた、自分の中に眠っている心のありようと、外の世界との調和。さらに布づくりのプロセスに内在する反復−瞑想の思考。そういったものを、四角や三角だけの単純な絵画に反映させたいと思っている。

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